東京家庭裁判所 昭和46年(家イ)2804号 審判
〔主文〕申立人と相手方との間の昭和三六年五月二九日届出による養子縁組は無効であることを確認する。
〔理由〕申立人は、主文同旨の審判を求め、その申立の実情として次のとおり述べた。<略>
調停委員会において、申立人と相手方特別代理人との間で「申立人と相手方との間の昭和三六年五月二九日届出による養子縁組は無効であることを確認する」との合意が成立し、かつその原因関係について争いないので判断するに、<証拠略>によると、申立人と三井春夫は昭和一八年二月一六日婚姻しその間に四人の子があること、しかるに三井春夫は昭和三二年頃から杉本昭子と懇ろになりその間に相手方が昭和三三年七月二〇日出生したこと、三井春夫は相手方を認知するのみではあきたらず養子として自分の戸籍に入れたいと強く考えたこと、そして昭和三六年五月二九日認知届をすると同時に、同日妻である申立人に無断に相手方との夫婦養子縁組届をなし、これが受理されて三井春夫、申立人と相手方との間に養子縁組がなされた旨戸籍記載がなされたこと、その後この事実を知つた申立人は夫春夫に異議を申立てたけれども、同人はこの異議を強圧的に抑えようとしたこと、そうするうち三井春夫は昭和四六年二月一八日死亡したこと、がそれぞれ認められる。
民法七九五条によると、配偶者のある者はその配偶者とともにでなければ縁組できない旨規定されており、したがつて、夫婦の一方がいかに特定の第三者との縁組を強く希望しても他方の配偶者がこれに反対する限り、本来その縁組はできないものといわなければならない。これは健全な養親子関係を期待した政策的規定というべきである。ところが、かような場合に縁組を希望する夫婦の一方が夫婦の双方名義で当該縁組届をし、しかもそれが受理されてしまつた場合の効力についてはなお検討を要するものがある。かかる場合、夫婦の双方にわたり縁組が無効という考え方がある。その理由は、民法八〇二条が縁組の無効原因を限定的に規定している限り、同条一号該当をあげることになるが、しかし、夫婦の一方は少なくも縁組意思を有するのであるから、これについても縁組意思なきものと律し去ることには疑問が残る。とくに本件の場合のように夫の側の縁組意思が強固な場合にはなおさらである。したがつて、民法七九五条についてはこれを縁組届の受理要件と解し、かりに夫婦の一方について縁組意思を欠くものであつても夫婦双方名義でなされた縁組届が受理されてしまえば、縁組意思を欠くものについては無効としても、縁組意思を有した者についてはその届出による縁組を有効と解していく余地が多分にある。
本件の場合かかる実体法上の問題があるのみならず、家事審判法二三条にいわゆる合意は身分関係の主体が当事者となつた合意でなければならない(最高裁昭和三七年七月一三日判決民集一六巻八号一五〇一頁)から、三井春夫がすでに死亡していて右合意の当事者となれない以上、相手方との縁組無効の合意は申立人と相手方との間の縁組についてのみなし得るものといわねばならず、したがつて右合意に相当する審判の範囲も右合意可能の範囲にしぼられるべきである。
そうすると、申立人と相手方との間の昭和三六年五月二九日届出による養子縁組届は申立人に縁組意思を欠く無効なものというべきであるから、前記当事者間の合意は真実に合致し正当というべく、よつて主文のとおり審判する。
(渡瀬勲)